ただ古神道では、全ての山を三輪山のような御神体と考えていないように、桃についても桃であれば何でもよいというわけではありません。
そもそもイザナギノミコトが桃を投げたという話は神々の世界の話であり、当然、桃も無形だったのですから。要は祓いの力を持つ者あるいは神が、その力を宿らせた桃を使う場合に限られるということになります。
また桃太郎の御伽噺でも、桃は鬼退治の主人公を生み出す特別な果実として扱われていますが、それもまた鬼という邪を祓うというところから桃が選ばれたのでしょう。
ところで、桃は日本にいつ頃伝わったのでしょうか。
奈良県の纒向遺跡で2010年に2千個を超す桃の種が発掘されました。桃の種は弥生時代の遺跡でもしばしば出土しますが、一つの遺跡でこれほど大量に出た例は他にありません。
周囲の状況からみて神事の供物などとして使われたものと推察できるそうです。やはり中国だけでなく、わが国でも古代から桃は神聖な果実として広く扱われていたのでしょう。
3月3日は桃の節供(節句)として祝われていますが、元々節供とは中国伝来の信仰で、季節ごとに神に神饌を供え無病息災を祈る行事でした。それが8世紀に3月3日に定められ、現代の大祓の神事のように、紙などで作られた人形(ひとがた)に自らの罪穢れを付けて河などに流したり、焚き上げたりするようになってゆきます。
つまりわが国では、節供は祓いが主たる目的の行事だったのです。それから時代が進むにつれ雛人形や桃と関連付けられてゆき、桃の節句となったということです。