
「太一生水」という文献をご存知でしょうか。
1993年に発掘された郭店楚墓竹簡(郭店楚簡)に書かれていたものです。
墓葬年代は、墓葬形態や出土器物から推測して、戦国中期BC四世紀中葉から三世紀初頭だとされています。
道家といえば「老子」(道徳経)が代表的な文献として知られていますが「老子」以外にも、この「太一生水」や「恆先」(1994年発見)という異なった宇宙観、存在論があった事が近年明らかになりました。詳細は諸々の発掘記録や研究論文を参照ください。
ところで、この「太一生水」では「水」に大変重要な役割を持たせています。
「太一水を生ず。
水反りて太一を輔(たす)け、是を以て天を成す。
天反りて太一を輔け、是を以て地を成す。
天地復た相補け、是を以て神明を成す。
神明復た相補け、是を以て陰陽を成す。
陰陽復た相補け、是を以て四時を成す。
四時復た相補け、是を以て滄熱(そうねつ)を成す。
滄熱復た相補け、是を以て湿燥を成す。
湿燥復た相補け、歳を成して止(や)む。」
「太一は水に蔵み、時に行りて、周くして或り。
生ずるを以て、万物の母と為る」
太一とは古代中国における宇宙の根元を表す哲学的概念ですが、直接的に生成に関わるのは、水・天・地まで。その後は連鎖的に生成されます。
他書で「水」についてどのようなことが言われているのか、その一部をご紹介しますと、、
知者楽水(論語)
上善如水(老子)
優游涵泳(論語)
明鏡止水(荘子)
水滴穿石(漢書)
水髄方円(筍子)
行雲流水(宋史)
等々多々ありますが、宇宙生成の最初の段階で「水」に着目したのは、中国の文献では、この「太一生水」がはじめてでしょう。
ところで、原子番号1の元素は水素ですが、これは宇宙で最も豊富にある元素であり、質量では宇宙全体の55% 、総量数では全原子の90%以上を占めていると言われています。
さらにエネルギー源としても宇宙活動それ自体に大変深い関係があります。
水素の性質や働きの広範さを知れば知るほど、「太一生水」の著者の慧眼に感心するばかりです。