輓近(ばんきん)欧米に行へる交霊術と上古希臘に行はれし降神術との比較するに、交霊術の降神術に及ばざる観あるは大に故なきにあらず。交霊の法たる直に宇宙統御の大霊に感合を求むるも豈得べき者にあらず。蓋し幽冥は各部の分掌に成る者にして、主宰の大霊の悉く親ら行はせ賜ふ者にあらず。各部主宰の神をして之を分掌せしめ、亦分掌の神は部属の神をして其事務を掌らしむ。其の神界の階級は確言するを得ずと雖も亦頗る夥多なる者ならむ。其の人に憑依する者は各部分掌の神と其眷属の神霊なり。而して常に祭祀する神霊か、又は其眷属に感合する者多し。正神界に仕ゆる高等の眷属は、天下の治乱興廃戦争の勝敗等を克く予知し得る者多し。希臘時代は天神地祇を祭祀したれば、即ち其神霊若くは眷属に感合せし者ならむ。国家興亡等の神誥の適中せし者の多きは此原因ならざるべからず。
近世の交霊術は人の死後の霊魂に感交するを目的とする者にして、希臘時代の如く吾国上世天皇親ら神懸を行はせ給ひ、国家の大事は即ち神慮に因り決せさせ給ひし大御世は更にも云はず。
儒仏の東漸して国民の思想変更し、皇祖〔註一〕の遺訓にして列聖遺制たりし神祇を祭祀する道衰へ、竟に自ら求めて神界に感合する道を失ひ、他感法神懸の術跡を絶つと雖も、苟も国家に関する大事ある時は神感の神懸其他の方法にて神異を示し賜ひし事は、天保十四年七月橘守部、歴朝神異例七巻を著し、神異を六国史を始め普く諸書に散見せる歴史的事跡に徴証し、天照大神の霊異を首とし其他六項を挙げ、治乱興廃の神慮による事の原因と結果とを明にせり。肇国以来万世一系の天皇統治し給ひ、国に革命なきを以て古伝の完全に存せしと、神霊を祭祀せる神社の現在せるとは、幽冥界の研究には世界無比の好材料を有する国と謂はざるべからず。