2022-06-16 著者:小山一夫
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「ある朝、わたしはたまたまヴェランダに立って、その方角を見ていた。太陽がちょうどそれらの樹々の葉の茂った梢をぬけて昇ってゆくところだった。
わたしが見つづけていたとき、突然にわたしの眼から覆いが落ちたらしく、わたしは世界がある不思議な光輝に浴し、同時に美と歓喜の波が四方に高まってゆくのを見た。
この光輝は一瞬にして、わたしの心に欝積していた悲哀と意気消沈の壁をつき破り、心を普遍的な光で満たしたのだった。 」
「私がバルコニーに立っていると、通行人のそれぞれの歩きぶりや姿や顔つきが、それが誰であろうと、すべて異常なまでにすばらしく見えた。
宇宙の海の波の上をみんなが流れて過ぎてゆくように、子供の時から私はただ自分の眼だけで見ていたのに、今や私は自分の意識全体で見はじめたのだ。
私は一方が相手の肩に腕をかけて無頓着に道を歩いてゆく二人の笑っている若者の姿を、些細の出来事と見なすことはできなかった。
それを通して私は、そこから無数の笑いの飛沫が世界中に踊り出る、永遠の喜びをたたえた泉の底知れぬ深みを見ることができたのだから」
<タゴール『わが回想』より>