世界はどこから生まれ、人間は何のために存在するのか。死によってすべてが失われるのか。エジプトと西アジアの神話は、こうした問いにそれぞれの言葉で答えている。本連載では、まず物語の筋道をたどり、そのうえで似ている点と異なる点を考える。
エジプトはアフリカ北東部に位置する。本連載でいう西アジアは、主にティグリス川とユーフラテス川の流域であるメソポタミアと、地中海東岸の地域である。比較の中心には、バビロニアの創世神話や洪水物語、古代イスラエルの伝承を収める『創世記』第1~11章を置く。イランの宗教思想は、必要な箇所で補助的に扱う。
ここで「神話」とは、世界や人間の成り立ちを神聖な物語によって語る伝承を指す。単に事実でない話という意味ではない。また、「西アジアの神話」という一つの統一された教えが存在するわけでもない。時代、言語、都市、信仰の違いを意識する必要がある。
概ねエジプトの資料では生命と秩序の更新が目立つが、例外として神の殺害や人類への懲罰を語る物語もある。西アジアの資料にも破壊だけでなく救済や恵みがある。「エジプトは楽観的、西アジアは悲観的」と決める前に、誰が何を失い、どのような形で回復するのかを確かめたい。
出典・参照:『ピラミッド・テキスト』、『天の牝牛の書』、『アトラ・ハシース』、『創世記』1~11章。巻末の典拠一覧参照。
文・小山一夫(クンダリーニJP代表)