2026-03-25 著者:小山一夫
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昔書いた日記からいくつかアップします。
2002-10-19
「知と愛」について(新潮文庫)
ヘッセの代表作のひとつ。原題は「ナルチスとゴルトムント」という。
「シッダールタ」で若き修行者の苦悩を描いたヘッセは、この作品では真理を求めるふたりの人間に異なった道を選択させる。ナルチスには宗門に留まり厳格な戒律と純粋培養的な修行人生を歩ませ、ゴルトムントには芸術家的な生き方で、魂の赴くままに波乱万丈な道を歩ませた。
ヘッセは「シッダールタ」でも主人公とゴービィンダに異なった道を選ばせたが、この作品ではよりあからさまに伝統的な宗教の無力さを語った。宗教的束縛や盲目的信仰の中からは、真の魂の自由は得られない。人は人生の紆余屈折を通してはじめて人間本来の姿に目覚めてゆく。
以前に、コップで海水をすくう喩話を書いたが、言わば、生きた海水ではなく特定のコップの在り方にこだわり過ぎるあまり「本質」を見逃してしまう事を正面から批判するヘッセは、彼の人生においても、晩年、形骸化した伝統宗教ではなくヨーガによる内的な体験に答えを見出そうとした。ゴルトムントの選んだ世界はある意味でヘッセ自身の選択でもあった訳だ。
私はこの作品を読む度に原始佛典「スッパニパータ」で釈迦が語った言葉を思い出す。
「ヴァッカリやバドラーヴタやアーラヴィ・ゴータマが信仰を捨てたように、
その様に汝もまた信仰を捨て去れ。そなたは死の領域の彼岸に至るだろう。」
つまり、釈迦も言うように
「信仰を捨てなければ究極の悟りには至れない」のだ。
これはまさに至言である。