一般財団法人 野萩青少年育成財団

中国医学の歴史

先行公開・2026年10月11日

第3回 前書き(3/3)

その姿勢を象徴する人物が、近代中国医学の大家・張錫純であった。張錫純は、西洋医学を排斥することなく、当時の新しい医学的知見を積極的に取り入れた。しかし、それは中国医学を捨てるためではない。患者を救うという医学本来の目的のために、中国医学の理論をさらに発展させようとしたのである。

私は、この探究の精神に深く共感した。学問は、伝統を守る人だけでも、新しいものだけを追い求める人だけでも発展しない。先人の業績を尊重しながらも、新しい知見を受け入れ、必要であれば理論を見直していく。その積み重ねこそが、本当の学問であると私は考えている。

本書では、中国医学を単なる漢方薬や鍼灸の歴史としてではなく、人間を理解しようとしてきた二千年に及ぶ知の歩みとして紹介したい。

また、中国医学と西洋医学の優劣を論じることも、本書の目的ではない。急性疾患や感染症、外科的治療などにおいて、西洋医学は目覚ましい発展を遂げた。一方で、未病、養生、慢性疾患に対する体質改善という分野では、中国医学には現代にも学ぶべき多くの知恵がある。

それぞれの長所を正しく理解し、人間という生命をより深く見つめること。それが、本書を書こうと思った理由である。

中国医学二千年の歴史が、読者の皆様にとって、新たな発見への入り口となれば、著者としてこれ以上の喜びはない。

【本書でいう「元原稿」について】 本書で「元原稿」と記す場合、 それは私がかつて中国医学について、一般向けの読み物ではなく専 門書としてまとめることを念頭に置いて執筆した当初の原稿を指す。

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