本書で中国医学の歴史を取り上げる理由も、そこにある。これは単なる漢方薬の歴史ではない。鍼灸の歴史だけでもない。二千年以上にわたり、人間という生命をどのように理解し、どのように健康を保ち、病気になったときにはどのように正常な状態へ戻そうとしてきたのか。その探究の歴史を辿ってみたいと思う。
2 中国医学は「漢方薬」だけではない
日本で「中国医学」という言葉を聞くと、まず漢方薬を思い浮かべる人が多いと思う。あるいは鍼灸であろう。しかし、中国医学の全体像は、それよりはるかに大きなものである。
私は中国医学を、その目的から大きく二つに分けて考えている。一つが治療医学であり、もう一つが養生医学である。
治療医学とは、すでに生じている病気や身体の異常に対して治療を行う医学である。さらに治療手段によって、薬物を用いる湯液医学と、経絡や経穴への刺激を中心とする経絡医学に分けることができる。日本で一般に「漢方医学」と呼ばれているものは、主として前者に当たる。鍼灸は後者を代表するものである。
ところが、中国医学にはもう一つの大きな柱がある。それが養生医学である。病気になった人を治すだけではなく、そもそも病気になりにくい心身をつくる。健康な人は、その健康をできるだけ長く維持する。年齢を重ねても、生命力をできるだけ損なわないようにする。この目的のために、中国では非常に古い時代から、食事、運動、呼吸、生活、精神状態などについて研究が重ねられてきた。
養生医学には、食餌法、築基法、房中術など、さまざまな体系が含まれていた。ここが、中国医学を理解するうえで非常に重要なところである。