第1章 がん薬物療法と漢方・中医学の併用をどう考えるか
1 がんそのものを治す治療と、支持療法を分けて考える
まず明確にしておきたい。
現在のエビデンスに照らす限り、漢方薬や中医学的方剤を、標準的ながん治療に代わって腫瘍そのものを消失させる治療法として位置づけることには無理がある。
日本における漢方のがん領域での研究は、食欲不振、倦怠感、消化器症状、末梢神経障害など、主として支持療法を対象として蓄積されてきた。
したがって、
「漢方薬でがんを治せるか」
という問題と、
「がん治療中の患者に漢方・中医学が何をできるか」
という問題は分けなければならない。
後者には、まだ十分に検討する価値がある。
2 動物実験で方剤の何を証明できるのか
方剤については、動物を用いた薬理研究も数多く行われている。
こうした研究自体を否定する必要はない。
例えば、ある方剤をマウスに投与して免疫系、炎症、腫瘍増殖、転移などへの作用を調べれば、その方剤に含まれる成分群の薬理作用について重要な情報が得られる可能性がある。
しかし、ここで一つ区別しなければならない。
それは、
「方剤の薬理作用を研究すること」と「弁証論治の有効性を研究すること」は同じではない
ということである。
中医学で人間を診察する場合には、問診、望診、聞診、切診などから証を判断する。
ところがマウスは、自覚症状を語らない。
人間と同じ意味で舌診や脈診を行うことも難しい。
したがって、証とは無関係に十全大補湯などをマウスに投与する研究は、十全大補湯という多成分薬剤の薬理学的研究としては成立しても、
「気血両虚と判断した患者に十全大補湯を用いる」