惚れっぽい、本当に俺は惚れっぽい、すぐ熱を上げる、但し、その人の芸にである、だから、長唄の男のお師匠さんに惚れたし、清元のお師匠さんに夢中になって、一緒に出稽古の先き先きまで一緒に歩るいて、変な噂さへまいて終ったし、笛の望月老へに惚れて終って根岸通ひもやった。
その人の技が良いなと思ふと、その美くしい芸に引き付けられて終って、離れられない。その芸の面白さと、味ひの深さと、その修練の尊さに感嘆して終って、俺もやり度い。下手の横好きになって終って、それからは、只、見るだけ、聞くだけの殿様になって満足する、それでも結好、溺れる事が出来るから、良寛様の欲溺不能よりは、地獄行の可能性もあると云ふものである。
「先生は粋なのよ」と料亭の女將がほめてくれた。此の自稱ダルマの子をね、だが「粋」と云はれて、俺も嬉しくなったさ。
