若月佑孔の記事一覧

「俺はこう思う」 男ってネ-8

著者:若月佑孔 / 元ブログ投稿日:2025-05-09

 

老人に「心よく一緒にお墓詣りをして、許して頂いて有難うございます」と云う男。


此の男はその老人の娘で芸者だったのと、神戸で心中したのだ。芸者は死んだ、自分は生き残った。京都の家を捨てて上京。今、その芸者の父親に詫び乍ら、墓詣りに来たところなのだ。「いいえ、あの娘も仕合せです。貴方に抱かれて死んだんだから、お恨みに思ひません。だか貴方の奥様も偉い方で、お陰様で私も斯う生きて居られます。有難いより、申訳ないほうです」


「エッ、あれが何かしたのですか」「はい、あの時、すぐ奥様が帶封のついた多額のものを下さいまして」「ウン、あれは何時もそうなのだ、何時も利口なのだ、いつも僕を縛り付けて居たんです。何時もこの僕を押へてゐたんです。おじいさんとこの彼女は、何時も僕を一人にして、樂にしてくれたんです」と嘆く。


たまらないよ。朝から夜寝るまで、ヤレ仕事、ヤレ生活、ヤレ何々、いろいろの事の連續だ。


あっ、ぽつんと一人で休みたいこれが男にある。又、奥様にもある。ヤレ主人だ、子供だ、買物だ、勝手だ、洗濯だ、付き合ひだ、ウルサイウルサイウルサイ、一日中クルクルと忙しい。


こんな生活の中で、縫物をし乍ら、大根をトンと切り乍ら、しみじみ一人靜かになって居る時があるでせう、此の短い一刻、靜かな一刻、細々と呼吸して、此の靜けさが毎日毎日の苦勞を救ってくれゐるのですよ。
 

元の記事