銭湯に行く、兩国の風呂屋は、靜かだ。二三ひっそりと這入ってゐる、夕方はとても混んで大変だ。特に近所に角力部屋がある、立浪だ高島だ、いろいろの角力部屋があるんで、稽古を終った角力取りがぞろぞろ来る。
俺は角力を好かんから、彼等角力取りの名前も何も知らん、只、頭の髷の格構でそして躯の肉付きの良し悪るしで古るい奴、新らしい奴、強い奴、弱い奴と見当を付ける。
大男總身に智恵が廻りかねと川柳にあるが、入浴中も粗暴無禮の態度が甚しい、これで国技を行う壮士ヅラも憎くいじやないか、四囲に人が居るのに立ったままで石鹸の泡をとばして洗う、ケンカしてやろうと思うが、相手は裸商賣、とても勝てないと口惜しいが我まんしてゐる。
親しめない、又、彼等の躯の綺麗なのは居ない。何となく毛物じみて清潔な感じもしないのも妙だ。
こんな奴の湯上がり姿に惚れて血道を上げる女があると云うが全く肉体的なものだろ、俺も夢中になって角力取りを追ひ廻してゐる娘と人妻を知って居る、彼等の何の智的な輝きがあるのか、若しあれば浴場での動作も美くしく、清らかさと、威嚴がなくてはなるまい。
大体此の浴場になんか来るのはヤクザで云ふ三下奴の部類かも知れない。たまにお供を二三人連れて来る太い奴もある、彼等の動作を見てゐると、年功か土俵上の力の差に依るのか階級的なものがある、
