若月佑孔の記事一覧

「片片草」 狼-2

著者:若月佑孔 / 元ブログ投稿日:2025-06-14

 

又、生きる為にはその四囲のものを頼り切って、俺は斯うだ、こんな地位がある。此の様な家柄だぞ、こんな親類がある、此の様な友達がと、それを自分の如くに、自分の値打に思って生活して居ないか。


で、俺は眞黒の中に立って、大地に吹きこむ風の音をきき乍ら、「無情」をはっきり知った。そして狼になって生き抜くには、「俺は俺の鼻でいきをするんだ」と悟った。


これでこれからの人生を歩るいてやれ、狼になり切れ、とはっきり思ったのである。


自分が自分になり切って、自分の力を自分を知って、四周の人に惑はされない、頼りにもしない。そして、自分のかぶさった殻としての、状況、事情、それを作り出してゐる地位や名譽や金銭や親類知己を本当に活用することこそ、「隨應に主となる」ことであると知ったのである、だから、それを一言で「狼」と言うんです、」と言うと、老師曰く、「お前は昔から狼と言う綽名だったが、いよいよ本物の狼になれたか」と大笑ひになって終った。


人間は、自分を正しく知るよりも、四周の状況が自分だと思い易い。皆がお世辞で云ってくれる言葉を、お世辞に知り乍ら、それも㐂しいのがそれの現はれだ。


誰彼は俺に斯う言ってゐる。彼はこれこれ援助すると言ったぞ、彼は俺に好意を持って居る筈だ、叔父に頼んだら、斯うして貰えるだろう、斯うなったら、兄貴は助けるだろう、そして「俺は」とそれで自分を価値付ける、だから、愈々となって、越中フンドンになると、苦しむのだ、そしてそんな奴に限って人を恨む。
 

元の記事