其の頃、目犍連の分身が、城中第一の金持ちの家に居りました。美酒と美食の膏肉に肥りきった、豚の様に見える主人の前に立っているのです。
すばらしい家でした。部屋の敷石の黒大理石も柱の白大理石も鏡のやうに磨き込んであります。
床に、無雑作に踏まれて居る毛の敷物の一尺四方の価格すら、其処に使って居る奴隷の一人の一生の身代金にも匹敵するものでした。鵞毛の羽根を入れた練絹の布團の上に、小猫がのんびり眠って居るけれども、黄金の飾りと、青い石をちりばめた椅子の上の主人は何か非常に当惑して、目犍連の顔を見つめて居るのです。
主人が閉口するのももっともなのでせう。
突然霧の様に這入って来た目犍連が供養をしろと言うのです、有名な、そして神通第一の譽れ高い目犍連と知って居る主人ですから、すぐそれに應じました。そして、尊者達の乗る馬を百頭寄進しようと云いました。
目犍連は頭を横に振りました。黄金を箱一パイ出しました、いやいやそれでもないと云うのです。
富んだ主人は、この位いの供養では死後の世界の極楽に行かれないのだろうと考えました。そして、馬千頭に練絹と黄金を一ぱい積載しましようと云ひました。
「いやいや、欲しいのはそれではない」と、尚ほ目犍連は言うのです。それで富んだ主人は閉口してゐる処なのです。「俺の供養して欲しいのはそれだ」と目犍連はゆびさしました。
それは、主人の前の香木の丸い卓子の上の金の林の這入った山羊の乳でした。目犍連は言ひました。
「天のめぐみの尊い様に、人の造った富も尊かろう。貴方の富も尊いものに違いはない。然し、それは人の作った戝貨が貴方の処に集まって居るだけだ。貴方の作り出したものは一つもない。大勢の人が苦勞して造ったものだ。貴方の本当に供養せねばならぬものは、その人々によって作られた戝貨ではない。それでは貴方の本当の供養にならないからである、何故なら、それは供養と言ひ乍ら、只、其の所有者を貴方から、此の俺に改めるだけだからである。
