此のお婆さん、今こそ、路傍で石畳の上で死にかかって居るものの、生れた時は隨分名門の金持の家の一人娘に生れたのです。ところが、持って生れた美貌も富も倖せも、高慢と我慾と疑り根性とが、次第次第にその德を失はせて、遂々人に見離なされて、今の有様です。
今まで嘗て、人を尊び、人を信じた事がないのです。一度も人に感謝した事がない。人と共によろこび、笑ひ合った事がない。貧しくなり、老いれば老ひる程いよいよ、そのかたくなな性情は益々強くなり、もう誰にも見棄てられて、餓えて、死の直前なのでした。
パッと誰かが寝てゐる前に飛び下りた様なのでお婆さんは驚ろいて、目を開いて見ました。驚ろいたと云っても躯が其の為に急に動けるでもない。汚い目を漸く開いたのですが、其処に美くしいお坊さんが立っているのを見ました。
目犍連はもっと驚ろかしてやらねばと思って、パッと跳び上ると美くしい童子様になって見せました。又ぱっと跳び上ると、今度は黄金の象に乗った美くしい尊い仏さまの姿になってみせました。お婆さんは息を吸うのも忘れた様に口を開いたまま眺めてゐます。
