俺の刀劍の鑑定や研ぎの事を教へてくれたのは櫻井老人だ。死なれてから十年にもなる。あの頑固一徹な怒鳴り聲が懐かしい。老人の若い頃、余り刀劍の研究に夢中になって、赤貧の暮しを續け乍らも家を顧りみないので、或る時、奥さんがひらき直って、「貴方!!刀と私と、どちらが大切なのですかっ!!」と聞くと、ウーと暫く唸って考へてゐたが、「矢張り刀だ!!」と叫んだと云う傑物なんだ。
俺も刀のことを教えられて面白くなり、水原の半鵞老人から、支那墨五丁と交換で手に入れた長船清光の中子に手拭ひを巻き付けて裏の孟崇藪に這入って、太い孟崇竹の根に近い処を、横ひら撲りに二十程もブン撲る。少し曲る。それを又逆に撲ってどうやら眞直ぐになおす。これだけ無理をしても折れないなら大丈夫だワイと得意になって、上京の時持って来て老人に見せたら、一目見るなり「撲ったな!!」と見破られた。「お前の無茶には呆れたものだ、もう役に立たぬ。」と言はれたが、俺も老人の慧眼には恐れをなした事を覚えてゐる。
