病人の心理と云うものは妙なもので、お医者さんに診断を受けに行く、上手な親切な先生が病人に心配させまいと思って、トントントン、ハイ、何でもありませんよとやると、「あの先生、ヤブだから判らないんだ。」となる。
「ハイハイ、此処も悪るい、此処も、此処も」と云うと「偉い上手な先生だ良く判る」と妙に感心したりそして、一生けんめい心配する。これは、私に相談に来る人達にも当てはまる。
「下医はメス用ひ、中医は薬を用ひ、上医は食を正し、聖医は言を以て癒やす」とも云はれてゐます。名医は案外不親切な顔をして居るじやないか。
偉いお医者さんと云へばあの南極觀測隊に第一回のとき一緒に行ったお医者さんです。何と云う方かお名前も知らぬけど、隊員には全然薬を呑ませずに帰ったと。
風邪らしいんです先生、ハイ、トントン、何でもないよ。
榮養失調じやないですか先生。トントン、大丈夫さ!!
結局薬を一服も渡さない。そして、隊員が行くと、手術の道具なんか机の上に並べて、これで皮を切る、これで骨をゴリゴリさ、隊員がびっくりして、先生先生と行かなくなった。結局病人は一人も出ず全員無事に芽出度く帰れた。
偉い方だと思う、ソラクスリ、ソレ休養ソラ榮養済となったら、皆な本気になって、本当に病気になったかも知れない。有難い先生です、聖医とは此の様な方かも知れません。
