仙台にトンジ(豚児)と云う、馬鹿の乞食が居てね俺が、小学校にはいる前さ、俺の家の門が屋根のある大きな門で、冠木門と云うのか、長屋門と云うのか、旗本屋敷の門なんだ。此処に、トンジが毎日来てて、俺と、五つ上の兄貴との親友なんだ、仲が良くてね、毎日、門の処で遊ぶんだ。お母さんがキタナイキタナイと云うが、どうしてどうして親切なものさ、パッチ(メンコ)をやってあそぶ、暗くなるまでやったね。
お盆になると、オシヨレンボ様、お精霊盆の飾りものをトシジが何処からか車を借りて来てオシヨレンボサマを集めて、川へ持って行って流す、東京どのお迎えお迎えだ。
俺も㐂しくなって車を押して一緒に行く、お母さんが追って来て叱るが、止められるもんか、湯殿川の大橋の上でオシヨレンボ様を流すとき、トンジはナスやキウリを別の箱に別けて終うんだ、悧巧だろ、このトンジ、雨が大きらひでね、雨が降り出すと泣くんだ、大きな声でね。
お母さんが近所の奥さん達四五人と、門の処で立話しをして居ると、雨の中をトンジが大声で泣き乍ら走って来た、多分俺のとこの門に来て休もうと思ったんだろ、お母さん達がゐたから、びっくりして別の方へ行こうとする。「馬鹿って仕方ないものですね」と誰かが嘆く様に云ったら、トシジ振り返って、「バカだバカだって、てんでの親になってみやがれや」名言だろ、”馬鹿だ馬鹿だと云って笑ひものにするが、それそれ子の親の気持ちになって考へてごらん」これは、豚児の母親が始終云う言葉なんだ。
