本居宣長と賀茂真淵の文章には、古い言葉をどのように理解し、歌や文章に表れた心をどう受け止めるかを考える手がかりがあります。本書では、その記述と関係の深い22項目に「国学の視点」を添えました。語の意味を確かめることから一歩進み、言葉の調子、心の動き、表現の広がりまで味わうための補助としてお読みください。
宣長に学ぶ心の動きと言葉の力
宣長は『石上私淑言』で「あはれ」を、見るもの、聞くこと、行うことに触れて心が深く感じる働きとして説明しています。古い歌を読むときには、悲しさという一つの感情に決めつけず、何に接して、どのように心が動くのかをたどることができます。〔国1〕
また、『古今集遠鏡』では古今集の歌を当時の日常語に訳しています。その「例言」は、語義を置き換えるだけでは歌の細かな心持ちや勢いを写せない場合があることを示します。同じ古語の訳し分け、語順の変更、助詞の力への注意などは、本書で原文と現代語訳を往復して読む際にも役立ちます。本書の現代語訳は独自に作成したもので、『古今集遠鏡』の訳文の転載ではありません。〔国2〕
真淵に学ぶ思いと表現の広がり
真淵は『文意考』で、心の内から起こる思いと歌との関係を説き、古い文章の言葉や調子を具体的に取り上げています。穏やかさだけでなく、勇ましさや悲しみなどを含む幅広い表現を見ている点も、言葉を学ぶうえで参考になります。同じ自然の素材でも、前後の言葉や場面によって印象が変わることを、各項目の二首で比べてみましょう。〔国5〕
原典と本書の説明を読み分ける
追補では、国学者が原典で述べた内容と、その視点を本項の言葉や歌に当てはめた説明を区別しています。取り上げた歌について、宣長や真淵が同じ解釈を示したとするものではありません。また、国学者の言語観や古代観にはそれぞれの時代の考え方が含まれます。個々の説を現代の語源研究の結論と同一視せず、本文を丁寧に読むための視点として用います。
〔国1〕から〔国5〕は、巻末「国学解説の参照資料」に対応します。原文の短い引用は鉤括弧で示し、それ以外は本書による要約または解説です。本文確認には公開されている翻刻・原文引用を用い、参照箇所を巻名や文章の題で示しました。